うたた寝ぐらし
vol.2 「午前中の極楽」
わざと、もしくはうっかり心がゆるむ時間を見つけていく、やまのぼりによるエッセイ連載。

やまのぼり
Instagram:https://www.instagram.com/yamanobori_0
1998年生まれ。会社員をしながら文や絵を描いたりフレグランスブランドを開いている。2025年にイラストエッセイ本「ヤマノボリ」を自費出版。
vol.2「 午前中の極楽」

登山を始めてから、自然と日常でも早起きをするようになった。
そもそも登山とは日の出と共に登り始め、お昼過ぎには下山するというのがセオリーらしく、朝の4時スタートなんてこともザラにある世界だ。
朝早くから活動するとまだ昼か〜となんだか得した気分になるのが嬉しくて、特に用事のない日でも5〜6時には起きる習慣がついてしまった。
では早く起きた分何をして過ごすかというと、本を読んだり、書き物をしたり、動画を撮影したりする。
大変有意義に過ごしているというと嘘かと思われるかもしれないが、本当のことである。
こうして似合わない早起き充実ライフにも慣れてきた頃、更なる充足感を求めて見つけたのが “午前中の昼寝” だった。
いや、まだ昼ではないから二度寝なのだろうか。とにかくこれが極楽の中の極楽なのだ。
起床してから2〜3時間の生産的な活動をしたのち、そのままベッドの柔らかさにダイブ。朝の木漏れ日を顔に感じながら、束の間の夢心地を味わう。
きちんと布団などをかけてはいけない。あくまで生産的活動中につい寝てしまったという感じを出すために、枕も使わずどさっと倒れてだらしなく手足を伸ばすのが良い。これが一番気持ち良いのだから。
昼寝との違いは、なんと言っても朝の清々しい空気と日差し、そして圧倒的罪悪感の無さにある。
また二度寝との違いは、一度起きてからすでに朝ごはんを済ませ、歯も磨いて最低限の支度は整えており、さらにある程度の活動をしている点にあると言えるだろう。
なんて素晴らしい発明をしてしまったのだ。普段とぼけている頭の割に、我ながら良いことを思いついたと褒めてあげたい。
まあとぼけていないマトモな頭で考えたなら、せっかくの早起きは二度寝なんてせずに過ごした方が得だと思う。
しかし、だ。
私の早起きというのは、朝早くから冴えた頭で効率的に活動するためではなく、この至高の昼寝を堪能するためにある。
ここで昼寝は時間が勿体無いなあとか、今日も寝ちゃったなあと少しも後悔してはいけない。この世の中から無駄と言われる行為を存分に味わい、噛み締めた上で眠りにつくことが幸せ極まりないのだ。
朝の日差しを受けながら、まどろみの中で意識が遠のいていくあの感覚は、夜暗い部屋の中で眠りに落ちていくのとはまた違う。
周りが明るいからか意識がはっきりした中で眠っていくというのは、これがまたなかなかの心地よさであるのは是非とも布教したい。
このエッセイを書くためにまた午前中の昼寝を実践した。締切が迫る中、優雅に二度寝をする。なんて幸福なのだろう。おかげで寝る寸前の感覚を詳細に描写することができた。
これは決して怠惰なわけではない、はず。
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