

うたた寝ぐらし
vol.1 「山登りの極意」
わざと、もしくはうっかり心がゆるむ時間を見つけていく、やまのぼりによるエッセイ連載。
やまのぼり
Instagram:https://www.instagram.com/yamanobori_0
1998年生まれ。会社員をしながら文や絵を描いたりフレグランスブランドを開いている。2025年にイラストエッセイ本「ヤマノボリ」を自費出版。
vol.1 「山登りの極意」
最近、山登りをはじめた。
やまのぼりっていうニックネームで本当に山登ってたら面白くないですか?
我らがワークマンで基礎装備をゲットし、地元の幼馴染達とまずは関東の低山で人気のある茨城の宝筐山へ。
森の中はひんやりと涼しく甘やかな香りがして、葉の擦れ合う音が耳に心地良い。けれども多少でも傾斜があるというのはなかなか体力が削られ、ものの数分でおしゃべりに息切れが混ざってくる。
初級中の初級の山とはいえ、場所によっては手を使って岩によじ登らなければならないし、小さな石や枝でも踏んづけるとあっという間に滑って急斜面に転げ落ちて死ぬ可能性もあるので気が抜けない。
(おしゃべりに夢中で転びそうになる度「山を舐めるな!」と怖い声で言い合うおふざけが我々の中で定番になってしまった)
一歩一歩足元の危険を確認しながら進む中、ふと顔を上げるとチラチラと降り注ぐ木漏れ日や、サーサーと流れる小さな滝や、急に現れるオゴソカな巨石が視界に飛び込んできてハッとする。まだ頂上にも着いていないのに、なんてことない景色にもいちいち感動する自分がいる。
みんなだんだんと疲労により無口になって最後はお互いの足音だけで生存確認をしながら、1時間ほどで頂上に到着。
山頂からの景色は潔いほど平らな関東平野が、遠く、遠くまで広がっている。運よく空気が澄んでいて、地球はやっぱり丸いんだと言いたくなるくらいほんのり湾曲した地平線が見渡せる。高層ビルなんかではこの平らを邪魔できないのだ!
まあ実際のところ茨城に高層ビルはないのかもしれないが…。
それから毎月2~3個の山に登るほどハマり、最近ではトレラン(山の中を走るスポーツ)まで手を出すことに…。
先日も下山中のランで木の根につまづきすっ飛んで両膝が痛んだ桃のようになった。人間の体とはこうも儚いものだと身を持って知ったものです。
さて、巷には「自然界隈」なるトレンドもあるらしい。
登山やキャンプ、自然を楽しめるスポットに行きSNSに投稿するというブームが起きているようである。
毎日決まりごとのようにスマホをスクロールしてしまう怠惰な自分から逃れたいという人々の心の表れか。あるいは、やりたくもない仕事を生活のために続けなければならない現実から、気を逸らしたいという人々の心の防衛なのか。かくいう私もそのひとりだが━。
それはさておき、自然の中に身を置くと日々のストレスや疲れをリフレッシュできて、リラックスするのって、一体何でなんだろう?
ちょっと調べてみると、森林浴をするとストレスホルモンが減って、リラックス時に高まる副交感神経活動が上昇するからなのだという。
人類は自然環境の下で長い時間をかけて進化し、自然に対応するように作られているため、自然に囲まれていると体がリラックスするのだそうだ。
なるほど確かに。
早朝の5時から日の出と共に活動すること。
一歩間違えば死ぬという緊張感で山道を歩くこと。
森の空気で呼吸をし、沢の流れを口に含むこと。
それは体を街から野に解放するようで、生きている心地がとてもするのだ。
自然の中にいると何だか体に良いっぽいという、野生のカンによる心地良さをみんな無意識に感じていて、「何だか疲れちゃったな」という時には、アウトドアをしに行ったり、はたまた近所の緑のある公園を散歩したりして、意識的に自然に触れているのかもしれない。
とはいえ今の所私は山の中より、下山後の温泉の方が最高の心のゆるみを味わっているので、人類が700万年かけて築いてきた営みを簡単に覆してしまっているのかもしれない。
▼やまのぼりさんへのインタビュー記事はこちら▼